証拠の概要
注:がんのスクリーニング(検診)と予防の研究に関する証拠レベルについては、別のPDQ要約を参照できるようにしてある。
PDQのがん予防要約では、がん発生率における低下と定義されるがんの予防を扱っている。PDQには、一般にがんの組織型によって分類された概要が示されているが、特にがんの種類別に既知の危険因子がある場合にはこの分類が明確である。本要約では、タバコの使用という特定の危険因子を論じており、タバコの使用は多種多様な多くのがん(およびその他の慢性疾患)と関連があり、明らかにヒト発がん物質を含んでいる。 [1] 本要約では、タバコの使用を減少させるため、医療専門家が行っている臨床介入を重点的に扱う。
禁煙の効果
固い証拠によると、喫煙は肺がん、口腔および咽頭がん、喉頭がん、食道がん、膀胱がん、腎がん、膵がん、胃がん、子宮頸がん、および急性骨髄性白血病の原因となる。 [2] 喫煙の回避と禁煙は、がんの発生率とがんによる死亡率を低下させる。
証拠の記述 -
研究デザイン
:1件のランダム化比較試験から得られた証拠。
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内部妥当性
:良好。
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一貫性
:良好。
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健康上のアウトカムに対する影響の大きさ
:喫煙者においては、いくつかのがんの相対リスク(RR)が非喫煙者と比べて非常に高くなる(喫煙者集団におけるこのRRは、がんの解剖学的部位ならびに喫煙の程度および期間に依存して、2倍から10倍もしくはそれ以上の範囲で高くなりうる)。集中的な臨床的禁煙介入を受けた重度喫煙者においては、全原因死亡のRRに15%の減少がみられる。
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外部妥当性
:良好。
カウンセリングと禁煙
固い証拠によると、医療専門家によるカウンセリングで禁煙率は改善される。
証拠の記述 -
研究デザイン
:複数のランダム化比較試験から得られた証拠。
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内部妥当性
:良好。
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一貫性
:良好。
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健康上のアウトカムに対する影響の大きさ
:カウンセリングは禁煙率を改善する(オッズ比[OR]、1.56;95%信頼区間[CI]、1.32–1.84)。 [3] [4]
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外部妥当性
:良好。
医師の助言と禁煙
固い証拠によると、禁煙を勧める医師の簡単な助言でも禁煙率が改善される。
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研究デザイン
:複数のランダム化比較試験から得られた証拠。
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内部妥当性
:良好。
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一貫性
:良好。
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健康上のアウトカムに対する影響の大きさ
:医師の助言は禁煙率を改善する(相対リスク[RR]、1.66;95%CI、1.42–1.94)。 [3]
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外部妥当性
:良好。
薬物治療と禁煙
固い証拠によると、ニコチン置換療法(ガム、パッチ、鼻腔スプレー、ロゼンジ、および吸入器)や一部の抗うつ薬療法(例えば、ブプロピオン)、ニコチン受容体作動薬療法(バレニクリン)などの薬物治療では、プラセボより高い禁煙率が得られる。
証拠の記述 -
研究デザイン
:複数のランダム化比較試験から得られた証拠。
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内部妥当性
:良好。
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一貫性
:良好。
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健康上のアウトカムに対する影響の大きさ
:ニコチン置換療法の単独または併用での治療により、6ヵ月後の禁煙率がプラセボよりも改善される(RR、1.58;95%CI、1.50–1.66)。 [5] ブプロピオンを用いる治療により、6ヵ月後の禁煙率がプラセボよりも改善される(OR、1.94;95%CI、1.72–2.19)。 [6] バレニクリン療法により、6ヵ月後の禁煙率がプラセボよりも改善される(RR、2.33;95%CI、1.95–2.80)。 [7]
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外部妥当性
:良好。
参考文献 - IARC Working Group on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans.: Tobacco smoke and involuntary smoking. IARC Monogr Eval Carcinog Risks Hum 83: 1-1438, 2004.[PUBMED Abstract]
- U.S. Department of Health and Human Services.: The Health Consequences of Smoking: A Report of the Surgeon General. Atlanta, Ga: U.S. Department of Health and Human Services, CDC, National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion, Office on Smoking and Health. Available online. Last accessed July 28, 2011.[PUBMED Abstract]
- Lancaster T, Stead L: Physician advice for smoking cessation. Cochrane Database Syst Rev (4): CD000165, 2004.[PUBMED Abstract]
- Lemmens V, Oenema A, Knut IK, et al.: Effectiveness of smoking cessation interventions among adults: a systematic review of reviews. Eur J Cancer Prev 17 (6): 535-44, 2008.[PUBMED Abstract]
- Silagy C, Lancaster T, Stead L, et al.: Nicotine replacement therapy for smoking cessation. Cochrane Database Syst Rev (3): CD000146, 2004.[PUBMED Abstract]
- Hughes JR, Stead LF, Lancaster T: Antidepressants for smoking cessation. Cochrane Database Syst Rev (1): CD000031, 2007.[PUBMED Abstract]
- Cahill K, Stead LF, Lancaster T: Nicotine receptor partial agonists for smoking cessation. Cochrane Database Syst Rev (3): CD006103, 2008.[PUBMED Abstract]
意義
米国では、2000年から2004年の間に喫煙関連疾患によって毎年443,000人が死亡したと推定されている。 [1] 平均して、これらの死亡は予想されるより12年早く、累積年間喪失は500万生存年を超える。 [2] このような死亡症例は主に、喫煙ががん、心血管疾患、および慢性肺疾患の主要な原因となっているためである。この他の健康への有害な影響として、呼吸器疾患および症状、核白内障、股関節骨折、女性の妊孕性の低下、および健康状態の低下も知られている。妊娠中の母親の喫煙は、胎児発育遅延、低出生体重、および妊娠合併症と関連する。 [3] 米国ではがん死亡例の30%以上および全早期死亡例の20%が、喫煙に起因すると推定されている。 [1]
タバコ製品は単一の、主な回避可能ながんの原因であり、様々ながんにより、米国の喫煙者に年間155,000人を超える死亡を引き起こしている。 [4] 肺、気管、気管支、喉頭、咽頭、口腔、鼻腔、および食道のがんの大多数が、タバコ製品、特に紙巻きたばこに起因している。喫煙はこのほか、膵がん、腎がん、膀胱がん、胃がん、子宮頸がんおよび骨髄性白血病と因果関係がある。 [3] [5]
喫煙は、非喫煙者の健康にも実質的な影響を及ぼしている。環境タバコ煙または間接タバコ煙は肺がんおよび冠動脈心疾患の発生に関与している。 [6] 小児における間接タバコ煙暴露は、乳幼児突然死症候群、下気道疾患、中耳炎、中耳滲出、喘息の悪化、および咳嗽、喘鳴、呼吸困難などの呼吸器症状と因果関係がある。 [6]
環境タバコ煙の成分は吸入される主流煙と同じであるが、主流煙より絶対濃度は低く、成分によって1%~10%である。タバコ煙に含まれる発がん性化合物には、発がん物質ベンゾ[a]ピレン(BaP)を含む多環芳香族炭化水素(PAH)およびニコチン由来のタバコ-特異的ニトロソアミン、4-(メチルニトロソアミン)-1-(3-ピリジル)-1-ブタノン(NNK)がある。 [7] 尿中コチニン、タバコ関連発がん物質代謝物、および発がん物質-タンパク質付加体をはじめとする、タバコ暴露のバイオマーカーの上昇が、受動喫煙、すなわち間接喫煙者においてみられる。 [6] [8] [9] [10]
2007年、米国では、成人男性の22.3%、成人女性の17.4%が現在喫煙者であった。 [11] (ウェブ上でも入手可能。) アメリカンインディアンおよびアラスカ原住民の間では喫煙習慣が特に多くみられる。また喫煙率は、教育水準と相反して推移し、米国のGeneral Educational Developmentの資格を取得した成人で最も高く(44.0%)、高校中退者で高率(33.3%)となり、一般に教育年数が増えるほど低下する。 [11] (ウェブ上でも入手可能。) 全民族集団において、高校生男女の喫煙率が1990年代初期に実質的に増大したが、1996年頃から低下しているようである。 [12] [13] (ウェブ上でも入手可能。)
タバコの使用が集団レベルの健康上のアウトカムに及ぼす影響が、肺がん死亡率の動向の例によって説明されている。女性の喫煙は1940年から1960年代初頭の間に増加し、その結果、1950年以来女性の肺がん死亡率は600%以上の増加となった。現在、肺がんは女性のがん死亡の主要な原因である。 [12] [14] この30年間で現在喫煙率は概して低下し、特に男性では急激に低下している。男性の肺がん死亡率は1980年代をピークとして、その後低下している;この低下は主に、喫煙との因果関係が最も強い組織型である扁平上皮がんおよび小細胞がんで起こっている。 [12] 州ごとの肺がん死亡率の差もまた、タバコ使用における長期的な州ごとの差とある程度一致する。2001年から2005年までの男性の平均年間年齢調整済み肺がん死亡率は、1997年に男性の29.1%が現在喫煙者であったケンタッキー州が最も高く(100,000人当たり111.5人)、男性の喫煙者がわずか10.4%であったユタ州が最も低かった(100,000人当たり33.7人)。女性の肺がん死亡率は、女性の28.0%が現在喫煙者であったケンタッキー州が最も高く(100,000人当たり55.9人)、喫煙者がわずか9.3%であったユタ州が最も低かった(100,000人当たり16.9人)。 [12]