多発性骨髄腫の診断:[がん情報サービス]
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更新日:2006年11月14日 掲載日:2006年11月14日
1.多発性骨髄腫とは?
多発性骨髄腫は、血液細胞の1つである「形質細胞」のがんです。形質細胞はBリンパ球が成熟した段階の細胞で、免疫グロブリン(抗体)という、病原菌から体を守る働きをするタンパク質をつくっています。正常時には形質細胞は骨髄に1%未満の割合でしかいませんが、がん化して骨髄で殖えることにより(通常10%以上)、さまざまな症状を引き起こすようになります。がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)は骨髄の至るところで殖えます(多発性)が、その他の部分で"かたまり"(腫瘍)をつくった場合には、形質細胞腫と呼ばれます。
この病気の大きな特徴としては、骨髄腫細胞が1種類の免疫グロブリン(単クローン性免疫グロブリンやM蛋白(えむたんぱく)とも呼ばれます)を大量につくることがあげられます。骨髄� �細胞でつくられた免疫グロブリンには正常の働きはなく、むしろ正常の形質細胞がつくる免疫グロブリンは圧迫されて減少し、体の免疫力は低下してしまいます。また、骨髄腫細胞が骨髄での造血(赤血球や白血球、血小板の産生)を妨げることにより、倦怠感(けんたいかん)や息切れ、感染症、出血傾向等の症状が現れます。骨髄腫細胞は骨を壊す作用があることから、骨の痛みや骨折などが生じます。さらにM蛋白は腎臓などの臓器にも悪影響を及ぼし、臓器の機能が低下してしまいます。このように、多発性骨髄腫は極めて多彩な症状を来す病気です。
一般的には慢性の経過をたどりますが、まれには急激に進行する場合もあります。また、症状についても個人差が大きく、個々の患者さんの病状に合った適切な治療を選択� �ることが、とても重要になります。
2.原因
多発性骨髄腫の発病には、年齢や性別、遺伝的素因、環境因子等が関係しています。年齢別の罹患率(りかんりつ)を示したグラフを見ると、40歳未満の方にはほとんど発症がなく、年齢が進むにつれて発症が増加していることがわかります。性別では男性にやや多い傾向があります。近年の高齢化に伴い、患者さんの数は増加傾向にあり、わが国では人口10万人あたり2〜3人がかかっているといわれています。環境因子としては、放射線被爆や化学薬品の影響、ダイオキシンの暴露(ばくろ)等が指摘されています。
がんになる原因については明らかにされていませんが、骨髄腫細胞にはさまざまな遺伝子異常が生じていることが知られています。この多くは、免疫グロブリン遺伝子の存在する14番染色体の転座や、他の染色体の数 の異常によるものです。
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3.病態
骨髄腫細胞はがん化したあとも免疫グロブリンをつくり続けるため、通常とは異なって、血液中に同じ種類の免疫グロブリン(M蛋白)が増えることになります。免疫グロブリンは2本の重鎖と2本の軽鎖からなる大きなタンパク質で、重鎖の種類により、IgG型、IgA型、IgD型、IgM型、IgE型に分類されます。骨髄腫細胞はIgG型とIgA型を産生するものが多く、まれにIgD型を産生しますが、IgM型やIgE型は極めてまれです。一方、免疫グロブリンの軽鎖のみを産生する、ベンスジョーンズ(BJP)型と呼ばれる骨髄腫もあります。
骨髄腫細胞はM蛋白をつくること以外にも、VLA-4やVCAM-1等の接着分子を介して骨髄の他の間質細胞と接着することにより、増殖を刺激するサイトカイン(IL-6、VEGF、IGF-1)をつくり出しています。さらに、骨を壊� ��働きをする破骨前駆細胞を活性化する因子(RANKL)を発現し、破骨細胞を活性化することにより正常な骨を溶かしてしまいます。このように骨髄腫細胞と間質細胞の両者が関連し、多発性骨髄腫の病態の環境をつくります。
4.症状
多発性骨髄腫では多彩な症状が現れますが、これらは主に骨髄腫細胞による骨髄の障害、M蛋白による障害、骨の障害に分かれます。
骨髄腫細胞が骨髄の中で増殖し、他の血液細胞の産生を抑えてしまうことから、赤血球、白血球や血小板が減ります。このため息切れや動悸(どうき)、発熱、感染症にかかりやすい、出血しやすいなどの症状が現れます。
骨髄腫細胞はM蛋白をつくりますがこれには体を守る働きはなく、逆に正常な免疫グロブリンは減ってしまい、感染症にかかりやすくなります。特に、肺炎や尿路感染症にかかりやすいという特徴があります。また、M蛋白が腎臓に詰まって障害を起こすと、むくみ(浮腫(ふしゅ))などの症状が現れます。M蛋白が大量に増えると血液は粘性が高くなり、循環が悪くな� �ます。これは過粘稠度症候群(かねんちょうどしょうこうぐん)と呼ばれ、頭痛や眼が見えにくい等の症状を起こします。さらにM蛋白の一部が変性し、消化管や腎臓、心臓、神経等の組織に沈着することがあります。この病態はアミロイドーシスと呼ばれ、沈着した臓器の機能を低下させることになります。
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多発性骨髄腫に最も特徴的なのは、骨の破壊による症状です。骨からカルシウムが溶け出すことによって血液中のカルシウムが高くなると(高カルシウム血症)、口の渇きや意識障害等が現れます。骨の破壊が進行すると骨がもろくなり、日常の動作でも骨折(病的骨折)を来すことがあります。骨の破壊は頭蓋骨、脊椎(せきつい:背骨)、肋骨(ろっこつ)、骨盤等に多くみられます。特に胸椎(きょうつい)や腰椎(ようつい)などの脊椎では、加重により押しつぶされる骨折(圧迫骨折)が起こりやすく、背部痛や腰痛が生じます。さらに、背骨が強く変形すると、背骨の中を通っている脊髄という神経が圧迫されてしまい、手足のしび� �や麻痺(まひ)、排尿や排便の障害等の非常に重篤な症状(脊髄圧迫症状)が起こります。
5.検査
多発性骨髄腫と診断し治療方針を決めるためには、いくつかの検査が必要です。このような検査の目的は、骨髄腫細胞とそれによる異常について診断を確定することと、全身の臓器について合併症の有無を確認することです。
尿検査では、ベンスジョーンズ蛋白(BJP)の有無について調べます。BJPは免疫グロブリンの軽鎖のみでできていて、構造が小さいため尿に出やすいという特徴があります。また尿蛋白の量について測定し、腎臓の障害の有無を調べます。
血液の検査では、赤血球数、ヘモグロビン値、白血球数とその分類、血小板数を測定します。進行すると骨髄腫細胞が血液中に出現することもありますので、その有無について確認します。また、LDHやBUN、クレアチニン、カルシウム、アルブミンの値を測定し、骨髄腫� �進行度や腎障害の有無を調べます。さらに血清蛋白分画(けっせいたんぱくぶんかく)や免疫グロブリン検査により、M蛋白の量について測定します。同時に免疫電気泳動や免疫固定法により、M蛋白の型(どの型の免疫グロブリンが異常に増えているか)を確定します。経過中にはM蛋白量の増減について調べ、治療効果の判定をします。免疫グロブリン検査では、正常な免疫グロブリンが減っていることも特徴です。β2ミクログロブリンも非常に重要な検査項目で、腎障害があると上昇しますが骨髄腫によっても上昇するため、進行度を推測するうえで重要な指標となります。CRPは感染症を合併すると高値を示しますが、進行型の骨髄腫でも上昇します。
診断を確定するためには、骨髄穿刺(こつずいせんし)という検査を行い ます。これにより骨髄の造血の状態、骨髄腫細胞の割合および特徴について調べます。顕微鏡で観察される形態のほかに、細胞の表面に出ているマーカーの検査から、骨髄腫細胞の成熟度について判定します。また、骨髄腫細胞に生じている染色体の異常について調べ、悪性度について判定します。骨髄腫細胞は染色体検査への感度が低いことから、最近ではFISH法と呼ばれる方法を用いています。
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診断時には、全身骨の状態についても調べます。一般的にはレントゲン写真(X線写真)を撮り、骨病変の有無について判定します。最近ではCT検査やMRI検査により、微少な骨病変や骨髄腫細胞の骨髄外への広がりについても詳しく診断できるようになっています。またPET検査で、全身的な骨髄腫の活動性病変についての評価も行われています。
骨の病変を把握するためには、骨代謝マーカーと呼ばれるいくつかの検査項目があります。主に、骨をつくるほうをみるマーカー(骨形成マーカー)と、骨が壊されるほうをみるマーカー(骨吸収マーカー)の2種類があり、血液や尿で検査します。多発性骨髄腫では骨の形成は抑制されていて、骨の破壊が進んでいます。
6.病型分類
このような一連の検査結果をもとに、病型(病気の広がり型や進行度)についての診断を行います。多発性骨髄腫あるいはその類縁疾患の病型については、2003年に国際骨髄腫ワーキンググループにより提唱された分類が用いられています。これは主に、血液中のM蛋白量と骨髄中の骨髄腫細胞の割合、臓器障害、腫瘤(しゅりゅう)の有無により分類する方法です。
最初の病型は「意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症(MGUS)」と呼ばれるもので、単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)量や骨髄内の骨髄腫細胞が少なく、症状も全くないタイプです。治療は不要で、経過観察をしても長期にわたり安定している病型です。病気の発見も、検診でたまたま見つかることがほとんどです。
「無症候性骨髄腫」はM蛋白が多 く、骨髄の骨髄腫細胞が10%以上であることから骨髄腫の基準を満たすものです。しかしながら症状はほとんどなく、臓器障害も伴わない病型です。経過観察を行いながら、次の「症候性骨髄腫」に進行した時点で治療を開始します。骨髄腫による臓器障害がある場合には、「症候性骨髄腫」と診断されます。多発性骨髄腫とは、一般的にはこの病型のことを指しています。この分類はあくまで治療を要する臓器障害が重要視されていて、M蛋白の量や骨髄腫細胞の割合については問題にしていません。骨髄腫による臓器障害とは、具体的には血中カルシウムの高値(>11mg/dl)、腎機能の低下(クレアチニン>2mg/dl)、貧血(ヘモグロビン<10g/dl)、骨の病変、過粘稠度症候群、アミロイドーシス、繰り返す細菌感染(年2回以上)があ� �られています。これらの障害の1つでもある場合には症候性骨髄腫と診断され、治療が開始されます。
一方、骨髄腫の中でも血液や尿にM蛋白が検出されないことがまれにあり、この場合には「非分泌型骨髄腫」と診断されます。骨髄腫細胞がM蛋白をつくらないためですが、症候性骨髄腫と同じく治療が必要です。
その他に骨髄腫細胞が殖える病気として、骨に1ヵ所だけ病変ができる「骨の形質細胞腫」や、骨髄外で骨髄腫細胞ががんをつくる「髄外性形質細胞腫」があります。
また、末梢血液中に形質細胞が検出される「形質細胞性白血病」と呼ばれる病型があり、一般的には骨髄腫の進行時に認められます。
7.病期分類
多発性骨髄腫と診断し、病期(病気がどの程度進行しているか)を決定します。古くから使用されている病期分類には、Durie医師とSalmon医師によってつくられたものがあり、この病期は体の中の骨髄腫細胞の量を反映しています。Durie&Salmon分類は、貧血の状態を示すヘモグロビン値、カルシウム値、X線検査による骨病変の程度およびM蛋白量の4つの項目で規定されています。検査結果のすべての項目が、基準より正常である場合がI期です。逆に1つの項目でも基準より悪い場合は、III期となります。I期とIII期に当てはまらない場合は、中間のII期として分類されます。さらにそれぞれの亜分類として、腎機能が正常な場合はA、低下している場合はBと呼ばれます。
一般的には、I期の段階は無症候性骨髄腫(くすぶり型骨髄� �)と同じであり、治療の必要はありません。ところがII期やIII期は、骨髄腫による臓器障害を来している状態(いわゆる症候性骨髄腫)であり、治療が必要になります。
最近では国際骨髄腫ワーキンググループにより、新しい国際病期分類が提唱されています。これはDurie&Salomon分類と比べてより簡単で、血清アルブミンの値とβ2ミクログロブリンの値の2つだけで決まります。病期Iが正常に近い場合で、進行するにつれてII期、III期となります。この分類に当てはめた症例の調査からは、各病期における生存期間の中央値はそれぞれ62ヵ月、44ヵ月、29ヵ月と推測されています。
8.予後因子
多発性骨髄腫の経過には、年齢や合併症の有無、病型、病期等が影響します。そのほかにも予後因子と呼ばれている指標があり、治療に対する反応性やその後の経過を推測する方法として用いられています。
血液検査では、アルブミンの値が低い場合やβ2ミクログロブリンの値が高い場合には、その後の経過が良くないと考えられています(国際病期分類)。また、血小板数が低い場合や、LDHやCRP、カルシウムが高い場合は病気の進行が速いようです。
骨髄腫細胞は顕微鏡で観察された形態や表面マーカーの検査により、骨髄腫細胞の型が「芽球型」である場合には治療の反応性が乏しく、その後の経過が良くありません。また染色体の異常がある場合、特に13番染色体が欠けている場合や4番と14番染色体が転座している場合� �も、その後の経過が良くないということが知られています。
実際の治療方針を決定するうえでは、このような予後因子についても考慮することが重要です。経過が良くないと推測される場合にはより積極的な治療法を選ぶなど、患者さんごとに最適な治療法を決定することが大切になります。さらに、最近では多発性骨髄腫に対する治療法の進歩が著しいことから、今後は治療効果についても改善していくことが期待されます。
参考文献
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